「ふぅ〜〜〜〜・・・・・・」
開け放たれた扉からは、ポカポカとした陽気が差し込んでくる。
商店街の一角。それほど大きくも無い古本屋。
扉のすぐ隣のレジカウンターで、まったりしている少女が1人。
比良凪 奏・・・通称「かな」。
またの名を「アルバイトの鬼」。・・・実際にそう呼ぶ者は誰も居ないが。
一説には、彼女は3桁を超えるバイトをこなしてきたと言われている。
そして、この古本屋のレジも彼女のバイトの1つであった。
平和だった。
ここの古本屋は立ち読みOKということもあり、レジに人が来ることは30分に1回程度であった。
今の時間帯は学校帰りの学生達で、それなりの賑わいを見せているが
その中で、本を「買いに」来るものは一握りに過ぎない。
自分の仕事は、ただここに座っているだけ。
店内を走り回る仕事や、何度やっても苦手な接客業より、ずっと楽なバイトだった。
「あ、見て見て、こだまちゃん。このマンガおもしろいよ♪」
「ホントですね〜、ひびき先輩☆」
2人の女子高生が並んでマンガを読んでいる。
微笑ましい光景である。
ただ、背の低い方の少女・・・こだまの立ち位置が、ひびきと呼ばれた少女の居る所に近すぎる気がした。
「こ、こだまちゃん・・・ちょっとくっつき過ぎじゃないかな?」
「そんなことないです!こだまは、こーやってひびき先輩と一緒に居る時が一番幸せなんです!」
「・・・答えになってないよ、それ・・・」
こだまは気にせず、ひびきにすり寄って来る。
ひびきとしては、別にすり寄られるのが嫌という訳でもない。
いつもこだま以上に積極的にすり寄って来る友達も居るし、慣れているのである。
しかし、ここは人目が多い。実際、先ほどから視線が痛い。
さりげなく半歩動いて離れてみる。
間髪入れずに「さっきの」距離に戻る。いつ動いたか見えなかった。
「(困ったなぁ・・・)」
ひびきは手にマンガ持ったまま悩んでいた。
と、
「ここに居たやがったか、ひびきっっ!!!」
店内に響き渡る怒声。
一斉に集中する視線をものともしない強靭な、というより鈍感な神経。
ひびきの知る限り、そんな人物は1人しか居ない。
かずまである。
そして、かずまのことを知らないかなにとっては、ただの五月蝿い客でしかなかった。
その五月蝿い客は、周りを気にせず叫ぶ。
「さぁ、今日という今日こそ、てめぇより俺のほうが強えってことを証明してやる!!」
「そのセリフ何回目よ・・・」
「お客様、店内ではお静かに」
「黙れ!さぁ、かかってきやがれ!!」
かなの声は完全にかき消された。「黙れ」も恐らくは、いや絶対かなに向けてものではないだろう。
「かずま先輩!ひびき先輩は今こだまとデート中です!勝負はまた今度にしてください!!」
こだまがガシッとひびきの腕にしがみつく。
「デ、デートって、こだまちゃん・・・」
かずまもかずまなら、こだまもこだまである。
「悪いが、喧嘩に場所も時間も無え!なんなら、てめぇからぶっとばすぞ、こだま!!」
その声と共にかずまの拳から炎が巻き上がる。
こだまは一瞬ビクッとしたが、すぐに構えをとる。
「ひ、ひびき先輩のためです!!」
「こだまちゃん、別に頼んでないよ・・・」
「お客様、店内は火気厳禁です」
「さぁ、いくぜ!!」
かなの声どころか、ひびきの声もかき消された。
「てめぇに時間をかけてらんねぇ、一発で決めるぞ!!」
言い終らない内に、かずまの姿がフッと消える。
「え!!?」
驚くこだま。
しかし、消えたのでは無かった。姿勢を落とし、一気にこだまの懐に潜り込んだのである。
「ぅオラぁ!!!」
炎を纏った拳が突き上げられる。防御はもう間に合わない。
「・・・!!」
目をつぶって痛みに耐える準備をするこだま。
だが、その痛みは何時まで経っても訪れない。
恐る恐る目を開けて見る。
目の前にはかずまではなく、釣り目の少女が立っていた。
そして、その足元に突っ伏しているかずま。
意味が分かっていないこだま。
そして、かずまが店員さんの見事なオーバーヘッドキックで蹴り飛ばされる瞬間を目の当たりにしていたひびき。
「何しやがんだてめぇ!!」
かずまが頭をおさえながら叫ぶ。
「お客様」
かずまの顎にくるぶしを当てるかな。
「店内での暴力行為は」
そのまま足だけでかずまの身体を持ち上げ、店の外へ放り投げるかな。
「ご遠慮下さい」
その場で鋭い蹴りを繰り出すかな。すると、小さな竜巻が現れ真っ直ぐかずまの方へと飛んでいく。
竜巻がかずまに当たった瞬間、その場に大きな竜巻が発生し、かずまは遥か彼方に吹き飛んだ。
「・・・いっちょあがりっと」
カウンターの方に歩き去るかな。
呆然とするこだま(と、他の客)。
ただ1人、ひびきだけは今の技がどこかで見たことある気がして、気になっていた。マンガを手に持ったまま。
「(確か片桐流の足技に、あんなのがあった気が・・・うちの門下生かな?)」
「あ〜、やっぱり片桐か〜!」
その声に我に返る。声の先には見覚えのある顔。
「あ、なつめ先生にサヤ先生」
「さっき六堂のやつが吹っ飛んで行ったのが見えたから、どうしたのかと思ったら
ま〜たあいつ片桐に喧嘩挑んで負けたのね。懲りないわね〜あいつも」
「先生、今回は私がやったんじゃないですよ」
「え?」
「そこの店員さん・・・」
かなの方を見るひびき。その視線の先を確認するなつめ。
「あら・・・世の中広いわねぇ・・・」
それで済ませてしまえるのがなつめ先生である。
それ以前に、教師として吹っ飛んでいったかずまの心配はしなくていいのか、とかなは思ったが
すぐにかずまの顔を思い出し、あいつなら大丈夫だろう、とかなも思った。
「ところで、先生は何でこんなところに?」
「ああ、サヤがこの辺りで待ち合わせがあるとかで、一緒についてきてやってるわけ」
「ホントは残業サボりたいだけなんだろうけどね〜☆」
次の瞬間、瞬速の回し蹴りがサヤを襲う。
それをどこからか取り出した、くまのぬいぐるみで受け止めるサヤ。動きが慣れていた。
「ちょっと早く着いちゃったから、立ち読みでもしていこっか♪」
サヤが「どこかに」くまを直しながら言う。
「そうね。ちょうど、今読んでる文庫本終わりそうだし」
その会話を聞いて、かなは思った。
普通、生徒が寄り道している本屋で教師が一緒に立ち読みするものかな、と。
しかし、そんな「常識」は通用しなかった。
なぜなら、なつめとサヤだから。
「よ〜、かなっちゃん元気か〜!」
突然の能天気な関西弁。振り向かずとも誰かは分かった。
「いらっしゃい、みづきさん」
みづきとは、何度か一緒にバイトをしたことがある。タコヤキ屋とかお好み焼き屋とか、そんな店でばかりだが。
また、ここの古本屋の常連で、いつもマンガを売りに来ていた。
「おう。今日はこれ頼むで」
そう言いながら、ドサッと大量のマンガ本をカウンターに乗せる。
「ちょっと待って」
一冊一冊、保存状態などを確認していく。
普通の人なら、かなり時間がかかる量であった。
しかし、そこは「アルバイトの鬼」。凄まじい速度で査定していく。
ものの数分で山と詰まれたマンガ本全ての買い取り価格を計算し終える。
「700円・・・だね」
「なにぃ!?何冊あると思ってんねん!もうちょっと勉強してーな!?」
「そんなこと言われても・・・」
「な〜、うちとかなっちゃんの仲やないの。な?」
「でも・・・」
「もー、ケチやなー」
「キミよりマシ・・・」
「・・・何やてー!!」
みづきがイキナリかなに拳を振るう。
しかし、かなはその拳を靴底で受け止めた。
「むぅ・・・やるな、かなっちゃん。今回はその蹴りに免じて退いといたるわ」
蹴ってないけど、というツッコミは飲み込んだ。言うと漫才につき合わされそうだから。
「とりあえず、うちもこの後にバイト控えてるさかい、今日はもう帰るわ。また来るで!」
「うん。また・・・」
イキナリ来て一暴れしてすぐ去っていく。まるで嵐である。流石は浪花のハリケーン女。
「誰がタイフーン女やねん!!」
作者にツッコまないでください。しかもちょっと間違ってます。
「細かいこと気にしてたら大物になられへんで」
「誰と話してるの、みづきさん・・・」
「気にせんでええ。関西人にしか分からへん領域や」
意味不明である。
みづきが帰った後、店には一時の平穏が戻った。
かなとしては、まだひびきやなつめといったトラブルメーカーがいることが気がかりだったが、
今は普通に立ち読みモードである。
・・・あいかわらず、ひびきはこだまにくっつかれて困っていたが。
「ごきげんよう、かなさん」
「ごきげんようですよ〜♪」
「あ、いらっしゃい、あやせさん。・・・あ、まどかさんも」
そこには、あやせとまどか、敷杜姉妹の姿があった。
かなはこの姉妹のどちらとも仲が良かった。
あやせとは趣味の話(ハーブの栽培)で話が合い、よくおしゃべりをしている。
まどかは、バイト先のスポーツジムで知り合った。
掃除のアルバイトで入ったはずなのだが、いつも練習相手をさせられている。
まどか曰く「かなちゃんは強いから、練習相手にぴったりですよ〜♪」だそうな。
別に相手をするの嫌では無い。まどかは普段はのんびり屋で、一緒に居て楽しい。
しかし、「練習」と言っているのに、たまに手加減せず本気で技を使うことがある。
酷い時では、ジムからキロ単位でブン投げられたこともある。
・・・普段はいい人である。普段は。
「あやせさん達が来るなんて、珍しいね」
特にまどかさんが、と言いかけて止める。
「はい。今日は少し待ち合わせがありまして」
「待ち合わせ?」
「あ、あやせちゃん、やっほ〜☆」
店の奥からサヤが走り寄って来る。
「ごきげんよう、サヤ先生」
丁寧にお辞儀するあやせ。
「あれ?この人って、あやせさんの学校の先生じゃないんじゃ・・・?」
かなはサヤのことは知らない。
だが、さっき違う制服の少女と話をしていたところから見て、ひびき達の学校の教師だと分かったのである。
「はい。私は鳳燕女学園で、サヤ先生は千華学園の教諭です」
「じゃあ、なんで・・・?」
「はい。実はサヤ先生は裁縫が非常にお得意なことで有名なんです。そこで、少し御願いを致しまして・・・」
「で、これがその頼まれごとってわけ☆はい、ど〜ぞ♪」
サヤがバッグから少し大きめの紙袋を取り出す。口は閉じられており、中は見えない。
「ありがとうございます」
それを受け取り、即座にバッグにしまおうとするあやせ。だが。
「あ、見せて見せて〜♪」
まどかが紙袋を掴む。
「ね、姉さん!いけませ・・・」
あやせがうっかり強く掴んでしまったのが運のツキ。腕力の強いまどかを止めることができるはずもなく。
びりっ。
紙袋は無残に破れさった。
そして、中に入っていた「ぬいぐるみ」が地面に落ちる。
「あ・・・」
全員がそれに注目した。
それは、まどかのぬいぐるみであった。
よくできている。そっくりだ。特に天然っぽい顔とかが。
「え、え〜と・・・あやせちゃん?」
「・・・・・・!!」
あやせは顔を真っ赤ににして地面に落ちたぬいぐるみを急いで拾い上げると、猛烈な速度で走り去った。
「あ、待ってよ、あやせちゃ〜ん!!」
まどかもすぐに後を追う。だが、まどかの走る速度はお世辞にも速いとは言えず、
その場にいた全員が「追いつくのは無理」と言えるほどであった。
後には、対応に困るサヤ先生が残された。
「・・・え〜っと・・・」
「あ、この本お願いね」
その光景を唖然とした顔で見ていたかなに、突然なつめが声をかける。
「あ、はい。200円です」
「はいはい。やっぱり古本は安くていいわね〜、また来ようかしら?」
金を払い本をバッグに放り込むと、サヤの肩をポンと叩く。
「用事も済んだし、行きましょっか?」
「あ、ゴメン。もう1つ約束があるの☆」
「ん?今度は何?」
「こっちも、もうすぐ来るはずだけど・・・」
辺りを見回すサヤ。だが、見つからないらしい。
「・・・ひょっとして、あの人ですか?」
「え?」
かなが店の外を指差す。ずっと気になる人影があったのだ。
その人物は、店の向かい側の電柱の陰から、じ〜〜〜〜〜〜っと店の方を見ていた。
「あやせさん達が来た時から、ずっとこっちを見てるんですけど・・・」
「あ〜、まやちゃん、来てたのなら言ってくれればいいのに〜☆」
「・・・・・・すいません」
まやは、電柱の陰から動かない。
「ええと、まやちゃんにはこれね☆はい♪」
と、サヤは持っているカバンより明らかに大きい紙袋を取り出した。どうやってかは分からないが。
「・・・ありがとうございます」
まやは超高速で通りを横切り、紙袋を受け取る。
しかし、勢いよく飛び出しすぎたせいで(且つ、紙袋が大き過ぎたせいで)紙袋を落としてしまった。
今回の紙袋は、大きさゆえ口が閉じられていなかった。そのため、中身が少し外に出てしまった。
「・・・プリン?」
かなの目には、それはプリンのように見えた。超特大のプリンのように見えた。
「そう!サヤちゃん特製ビッグプリンクッションなのだ〜☆」
一同、沈黙。
「・・・・・・何か?」
まやがかなの方を睨んでいる。
「いえ、何でも」
かなは反射的にそう言った。そう言わざるを得ない空気だった。
まやは店内に居るひびき達も睨みつける。
ひびき達は、すぐにマンガに目を落として他人のフリをした。そうしないと夜道を歩けない気がした。
「では・・・」
まやは、いそいそとプリンを紙袋に詰めなおすと、それを抱えて風のように消えてしまった。まさに風のように、だった。
「うちは嵐やのに、あいつは風かい・・・」
「みづきさん、だから誰と話してるの・・・?それにさっき帰ったのでは・・・?」
「嫌やなぁ、今からバイト行くとこやっちゅうねん。じゃあな〜♪」
結局、誰と話しているかは教えてくれなかった。教えられても困るが。
「さて、じゃあ今度こそ帰りましょうか」
なつめが手に持った本を閉じながら言う。
一連の行動の間、ずっとさっき買った文庫本を読んでいたらしい。
神経のず太さはかずま並みである。
「うん、帰ろ帰ろ〜☆」
サヤとなつめは、そろって店を後にする。
「わ、私達もそろそろ帰ろっか?」
ひびきがマンガを棚に戻す。
今帰らないといけない気がした。もし、今帰らないと帰り道で襲われる気がした。
「はい、このまま道場までご一緒します!!」
「そ、そう・・・」
苦笑しながら、扉に向かって歩き出す。
「あ」
「どうかしましたか?」
「いや、何か忘れているような・・・」
「?気のせいじゃないですか?」
「なら、いいんだけど・・・」
「あ、あの・・・」
「ん?何ですか?」
「いえ、何でも・・・」
「あ、そう」
そのままひびきはこだまと共に帰路についた。
かなは重度の人見知りであった。初対面のひびきに真っ直ぐ見つめられると、声が出なくなってしまったのである。
ひびきの「忘れ物」には気づいていた。それを教えてあげようと思ったのである。
・・・というか、忘れる方がおかしいものなのだが、と心で付け加えた。
一気に静かになった。今度こそ、本当の平穏である。
日も暮れてきて、店の学生達も帰り始めた。
そんな中、1人の少女が店に入ってくる。
「あ・・・」
見覚えがあった。
この古本屋の常連さんで、いつも洋書を買っていってくれる少女。
名前は知らないが、雰囲気からして「お嬢様」といった感じである。
少女は、いつもどおり洋書の置いてある棚へと向かうと、難しそうな洋書を物色し始めた。
彼女を見ていると、少し憧れのような感情を抱くことがある。
−お嬢様、か・・・ボクには程遠いな・・・
もうちょっとおしとやかになれば、ボクも・・・と思ったが、きっと無理だろう。
おしとやかにしたところで鋭い目つきのせいで「お嬢様」にはなれないだろう。
自分の釣り目が疎ましかった。
「おお、ここに居たか!我が最愛の妹よ!!」
店内に響くでかい声。かずまやみづきのものよりもよくとおる声の分、余計にやかましい。
−またなんか来たよ・・・
嫌だが振り向いてみる。
白い学生服に身を包んだ長身の男が立っていた。
「れ、れい兄さん!!?」
持っていた洋書を派手な音をたてて落としながら、「お嬢様」が叫ぶ。
「そうだ、ひさしぶりだな!さぁ我が妹まなよ、この私の胸に飛び込んでくるがいい!!」
飛び込んできたのは大量の光弾だった。20HIT。
「何をするまな!?それは最近流行の再会方法か何かか!?」
「に、兄さんはそんな変なテンションじゃない!そんな変なキャラじゃないっっ!!」
「それが久しぶりに会った兄にかける言葉か!?」
明らかにまなの言っている事のほうが酷いし、れいの言っていることの方が正論である。
しかし、まなの方が正しいことを言っているように見えるのは、その光景を呆然と見ているかなだけではないはずだ。
「く・・・仕方ない。この兄が直々に礼儀作法を教えてやろう!!」
と、言いつつ右手に気を溜めるれい。
「兄さんは私が昔の兄さんに戻してみせる・・・!」
全身が輝きだすまな。
−やばい、店が壊される!
かなは直感的にそう思った。
その瞬間に体が動いていた。
「切り裂・・・!」
れいが気を地面に叩きつけようとした瞬間、かなの飛び蹴りがれいの後頭部を捉えた。
「悪いけど、店のためだから・・・!!」
着地と同時に、蹴りの連打。更にフラミンゴキック数発から顔面に靴底ハイキック。
「まだまだ・・・!」
超速の後ろ回し蹴りを連発する。その一発一発から、巨大な衝撃波が巻き起こる。
そして最後に放った特大衝撃波が、れいを店の外、遥か彼方に吹き飛ばした。
「・・・いっちょあがりっと。・・・あ」
まなの方を振り返る。もう光は消えていた。
「ごめん、お兄さんを・・・」
「いえ、いいんです」
首を横に振る。
「あれはきっと兄の偽者です。そうに決まってます。ええ、そうですとも」
目の焦点が合っていない。
「あ、あの・・・?」
「ああ、れい兄さん、何処にいるの?早く帰ってきて兄さん」
そう呟きながら陰の気を全身に纏って宙に浮かぶまな。
そして、そのまま夕焼け空へと飛んでいった。
「・・・・・・」
友達になれそうな気がした。何となくだが。
今日は満月だった。
それから数時間、何事も無く時間は流れた。
しかし、妙な疲れだけは身体に残っていた。
「・・・まぁ、こんな日もあるか」
毎日でないことを心から望みながら、閉店の準備を始める。
と、まだ「忘れ物」が転がっていることに気づいた。
−どうしよう・・・
かなは「忘れ物」を軽くゆすってみる。反応は無い。
−仕方ないなぁ・・・
「・・・お客様、もう閉店ですよ」
「ふみゃ?」
辺りをキョロキョロ見渡す「忘れ物」。
「あれ〜〜〜・・・ひびきちゃん、こだまちゃん、どこ〜〜〜?」
「お2人なら、もうとっくに帰りましたよ・・・」
「にゃ?そうなの?じゃ、えみちゃんもか〜えろ☆」
えみは猫のような背伸びをすると、スキップをしながら夜の闇に消えていった。
ひびき達と一緒に店に来たものの少し本を見ると眠くなり、店の外の日当たりの良い場所で丸くなって眠っていた。
そして、そのまま忘れられた。
かなも特に害は無いと思って放置していた。
結果として閉店まで寝ていた。
「・・・・・・」
かなは思った。明日はまともな客が来ますように、と。心から。
Fin
古本屋から遠く離れた、街の片隅のダストボックス。
「ふ、なかなか良い力だ。彼女も『パーティー』に呼ぶとしよう」
れいがキザっぽく髪をかきあげながら「独り言を」言う。
ゴミの上ではどんなセリフも格好がつかなかった。しかも独り言では。
「よう、あんたも吹っ飛ばされたのかい?」
突然、ゴミの中から少年が現れる。
かずまである。
「こんなとこであったのも何かの縁だ。そのパーティーとやら、俺も参加させてもらうぜ!」
親指を立てて歯を輝かせる。
タン。
乾いた音が鳴り響いた。
「悪いが男を呼ぶ気は全く無い」
れいはダストボックスから這い出ると、その場を離れた。
「・・・あれ?」
痛いとか熱いといった感覚は無かった。
ただ、身体が重かった。
カラスがつついてくる。振り払いたくても腕が上がらない。
赤いものが広がっていく。炎ではないらしい。
「疲れてんのかな・・・寝るか」
何だか妙に寒い。
意識が遠のいていく。
「明日は・・・ひびきを・・・・・・」
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