夏休み怪奇シリーズ 通り魔地獄変

原作・かんなづき ゆう
作・長宗我部いくゑ どり〜むずすたじお!

スペース

眠かった。

その少女・・・ひびきはどうしようもなく眠かった。

別に授業がつまらない訳ではない。
とにかく理由も無く、ただひたすらに眠かった。

ふと視線を隣の席に目を向ける。
そこには友人の・・・えみの安らかな寝顔があった。
少し遠くには「授業中以外は」元気なかずまが机に突っ伏している。
なお、かずまが授業中起きていることは滅多に無い。
起きていたとしても授業妨害しかしないので、教師側も起こそうとしない。
なお、えみは起こしても10秒も経たないうちに再び寝ているので、こちらも誰も起こそうとはしない。
−私も寝ようかな・・・
そう思った瞬間には、既に意識は薄れ始めていた。

額に物凄い衝撃を受け、一気に覚醒する。

「片桐〜、居眠りはダメよ〜」
教壇で赤い髪の教師、なつめが爽やかな笑顔を送っている。
「・・・先生、普通、こういう時ってチョークを投げませんか?」
「あら、それは固定概念と言うヤツよ?」
「だからって居眠りしてる生徒に咆哮弾撃つのは固定概念とかの問題じゃないかと・・・」
「それは違うわよ」
「え?」
「今撃ったのは『超』咆哮弾よ」
「・・・そっちですか・・・違うって・・・」
ひびきは改めて思った。
この学校は生徒も教師も普通じゃない、と。

スペース

「で、結局今日は気合で起きとったんか。お〜つか〜れさ〜〜ん」
放課後。
みづきのタコヤキ屋の前には6人の少女が居た。
「うん・・・なんでこんなに眠いのかなぁ・・・睡眠時間は普通なのに・・・」
ひびきは今にも閉じそうな目でタコヤキを見つめる。
そこにひょいと手が伸び、タコヤキの1つを取っていく。
「ひびきちゃんもねちゃえばよかったのに〜」
そう言って、えみが口にタコヤキを放り込む。
そして、熱さに身悶える。
「えみちゃん、猫舌なんだからちゃんとフーフーしてから食べないと」
「もう遅いと思います・・・」
こだまが控えめにツッコミをいれる。
「そういえばひびき先輩。最近変な噂が流れてるんですけど、知ってます?」
「噂?」
「はい。なんでも、町中の腕自慢の人達が夜、道端で次々と襲われているとか・・・
ひびき先輩なら誰が来ようが負けないと思いますけど、寝込みを襲われたらひとたまりも無いですし気をつけてくださいね」
「大丈夫、いくらなんでも道の真ん中で歩きながら寝たりはしないし」
笑いながら冗談を言うひびき。
「あ〜、私は歩きながら寝たことあるから気をつけますですよ〜」
「姉さん・・・それも冗談ですよね?」
「え〜?本当ですよ〜」
「・・・・・・」
ケタケタと笑うまどか。それを見て頭を抱えるあやせ。
「ま、まぁ、まどかちゃんなら寝てても後ろから襲われたら蹴り飛ばしそうだけど」
ひびきが苦笑しながら言う。
「・・・蹴るどころか、肩をゆすっただけで投げられて極められるよ」
タコヤキ屋屋台の奥から悲痛な声がする。
見ると、かながタコヤキのタネを混ぜていた。暗い空気を背負いながら。
「体験談なんだ・・・」
「うん・・・」
「というか、何故かなさんが此処に居られるのですか?」
「ああ、これ位の時間は客がぎょーさん来るから手伝ってもらってんねん」
「仕事量と給料が見合ってないけどね・・・」
「難いこと言うなや、親友やろ?」
「親友・・・」
プイとそっぽを向くかな。よく見ると顔が赤かった。
「さて、随分と話が脱線しましたが・・・さきほどの噂ですけど、私達の学園でも既に何人かの生徒が遭遇したそうですわ」
「え?噂だけじゃなくてホントに会った人居るんだ・・・どんなやつだって?」
「それが遭遇者は皆、口が利けないほど大怪我を負っているそうで何も分からないそうです」
「そりゃまた酷いなぁ・・・よし!!」
みづきがドンっと手を叩きつける。
タコヤキ焼き器に。
「あっつーーーー!!!!!」
公園の中央の噴水に走って行き、水に手を浸す。
「あ〜〜、死ぬかと思ったでホンマ・・・」
「・・・で、何を思いついたの?みづきちゃん」
「おお、そうや!その通り魔をうちらで退治したらへんかゆー話や!!」
「ふむ・・・確かにここに居る皆で力を合わせれば、誰が来ようと問題無さそうですわね」
−1人でも何の問題も無さそうな気がするけど。
そう思ったのはひびきだけでは無いだろう。
「せやろ?そうと決まれば善は急げ、今晩早速行動開始や!!」
「あの・・・ごめん、私は止めとくね。眠くて戦力になれそうもないし・・・」
ひびきが申し訳無さそうに言った。
「私も練習を休むわけにはいかないので・・・」
こだまもそう言って頭を軽く下げる。
本音を言えば「ひびき先輩が行かないなら行ってもしょうがない」であるが。
「ん、そうか・・・じゃあ」
黙々とタコヤキを口に運ぶ、灰色の髪の少女の肩を叩く。
「もちろん来てくれるよなぁ、まやっちゃん?」
タコヤキをほおばったまま、みづきを睨むまや。
「・・・面倒だから嫌です」
「むぅ、ノリが悪いなぁ・・・」
ふてるみづきに、ずいっとプラスチック皿を突き出すまや。
「おかわりを頼みます」
「ん?あいよ、12個入りでええな?」
「はい」
皿を受け取ると、かなに向かって叫ぶ。
「カスタード、12個な〜〜!!」
「・・・おいしいの?それ・・・」
ひびきが尋ねる。
「はい」
「ひびきも食べるか?うちの新製品、カスタードタコヤキ」
ちなみにソースの代わりにカラメルをかけて食べる。
「いや、遠慮しとく・・・」
「ん〜〜、結構自信作やねんけどなぁ」
「今のところ、まやさん以外誰も注文して無いじゃないか・・・」
「はい、かなっちゃん今夜の討伐隊強制参加決定な。来なかったら今月のバイト料無しやで」
「・・・蹴るよ?」
「蹴られてもカネは渡さんで」
「・・・・・・はぁ、分かったよ」
「後の皆はどないするん?」
「私は参加させていただきますわ。そのような不届きな輩を何時までも野放しにするわけには参りません」
「よ〜し、じゃあ、私も参加するですよ〜☆」
「えみちゃんはどうするの?」
やっと落ち着いてきたえみに、ひびきが声をかける。
「おむぉふぃろふぉーでゅぁくゎらふぁんくゎふぅる〜♪」
どうやら舌を火傷したようである。
訳すと「面白そうだから参加する」である。
これが分かったのは付き合いの長いひびきと、暗号解読のプロのまなだけだった。
だが、みづきもニュアンスで可否を理解したらしい。
「よっしゃ、これで5人やな。まぁ、人数はこんだけ居れば大丈夫やろ」
「ところで作戦などはあるのですか?固まって行動しては怪しまれますし、単独行動だとあまり意味がありませんよ」
「ふふん、そこんとこは任しとき。このみづきちゃんにスペシャルな作戦があんねん!!」
「・・・はぁ、大丈夫かなぁ・・・」
暴漢云々より、みづきの暴走が心配なひびきであった。

スペース

「・・・で、その『スペシャルな作戦』がこれですか?」
「なにゆーてんねん!古来より敵を捕らえる罠言うたらコレ一択やろ!!」
「これはただ『古典的』なだけと・・・」
みづき達はT字路の角から縦に頭を覗かせていた。
その視線の先にあるものは。

道のド真ん中に置かれたタコヤキ。

「いや、もうどこからツッコんでいいのかも分からないよ・・・」
大きく溜息をつくかな。
「まったく、姉さんも何か言ってやってください・・・姉さん?」
あやせのすぐ下に居たはずのまどかが居ない。
そして、すぐにまさかと思い「その方向」に目を向ける。
そこには、涎を垂らしながらタコヤキの方へと近寄っていく姉の姿があった。
「ね、姉さん!!!」
「え?あ、ごめんなさいです、つい小腹が空いちゃったもので〜☆」
「ほら、効果は絶大や!!」
「・・・もう言葉もありません・・・」
呆れかえるあやせをよそに、えみがみづきに問いかける。
「ね〜ね〜みづきちゃん。もしわるものがタコヤキきらいだったらどうするの?」
「・・・そういう問題ですか?」
「そこはちゃんと考えてあるっちゅーねん」
あやせの最後のツッコミは無視された。
「ふふふ・・・あそこにあるタコヤキが、ただのタコヤキと思ったら大間違いや!!」
「まだ何かあるの・・・?」
かなもすでに呆れている。
「あれは右から順に、
スタンダートなソース味、通好みな醤油味、辛党まっしぐらのカレー味、甘味マニア生唾モノのカスタード味になっとる!!!」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
もはや何を言っても無駄な気がした。
「え〜、カレーあじぃ〜?えみちゃんからいのきらい〜」
「・・・カスタードよりは100倍マシに見えるけど」
「なんにせよ、これで相手がどんな趣味であろうとカバーや。後は餌にかかるのを待つのみやで!!」
「いや、こんなのにかかる奴なんて・・・!!!」
かなの目が一瞬で鋭さを増す。
同時に、3人も既に戦闘体勢に入っていた。
唯一、えみだけは緊張感に欠けていた。
「ふみゃ?みんなど〜したの?」
「何かが物凄い速度で近づいてくる・・・!」
「こ、こんなに速いと掴めないかもです・・・」
「なんという殺気・・・!!普通の人なら、これだけで動けなくなりそうですわ」
「ふ、どうやらうちの作戦が効いたみたいやな!」
「いや、たまたま通りかかっただけだと・・・来る!!!」

疾い。
超上級格闘家とも言える彼女達の目をもってしても、残像を目で追うのがやっとであり、
誰一人その動きに反応できなかった。

そして、その残像が通り過ぎた跡には。

カスタード味タコヤキの皿だけが消えていた。

「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」

5人が一斉に後ろを振り向く。
その先には、口をもごもごと動かしている灰色の髪の少女の背中があった。
「・・・なにしとんねん、まやっちゃん」
「まさか、ここ最近の通り魔の正体って・・・?」
まやは口の中のものを飲み込むと、驚きの顔を見せるあやせの方を見る。
手にはしっかりとカスタードタコヤキの乗った皿が持たれている。
「私はコレの匂いに惹かれただけです」
「なんや、ハズレかい・・・」
「そういう問題ですか?」
もういい加減ツッコミ疲れてきていた。
「ん〜、まぁ、これでこの作戦の成功率の高さが立証できたし、今日のところは一旦退くか?」
「そうだね。うん、そうしよう」
全力で肯定するかな。
あやせがツッコミを放棄した場合、その役が回ってくるのは自分だと確信したからである。
「そんじゃ、残りのタコヤキを回収っと・・・」
タコヤキの方を向くみづき。
「あ、ここにあったカレー味のやつ、貰ってるよん☆」

スペース
スペース

間。

スペース
スペース

「誰!!!!!???」
ツッコミのカルテット(例によってえみは参加せず。かなも無視)。

そこには、巫女服姿の黒髪の少女が立っていた。
「ふっふ〜ん、よくぞ訊いてくれましたぁ!!
私こそ、代々都の妖を鎮め討ってきた退魔一族の末裔!!『ミラクルミコミコガール 七星夕香』よ!!!」
決めポーズをとるゆうか。右手に日本刀。左手にタコヤキ(カレー味)皿。

スペース

一同、沈黙。

スペース

「・・・恥ずかしく無いの?」
やっとのことで、かなが口を開いた。
「?なにが?」
訊いて後悔した。
「そちらこそ、こんな夜中に女の子が集まって何をしてるのかなぁ?
あ、ひょっとしてこれからぁ・・・も〜好きねぇ、きゃ〜〜〜♪」
1人で言って1人で盛り上がっている。
「え〜と・・・ゆうかさん、でしたっけ?退魔の一族ということですが、最近噂の通り魔事件と何か関係が?」
最も素早く正常の思考に至った(というより開き直った)あやせが尋ねる。
「ああ、白百合の園が・・・え?ああ、そうそう。私もそれを今調査してるのよね〜」
妄想から帰ってきたゆうかが答える。
「町中が異様な空気に包まれていて、どこに相手が居るのか掴めないのよね。
巨大な力が潜んでいることは確かなんだけども・・・」
「町中を覆うほどの力・・・?直接的なものでは無いにしても、そんな力を発生させれる者など・・・」
あやせはそこまで言って、ハッとする。

心当たりはある。
だが、それはありえない。
しかし、そんな力を持つ者は1人しか居ない。

−れい様・・・!?

「どうかしたんか?」
みづきに声をかけられ、我に返る。
「いえ、何も・・・」
「ん、そっか。ところで、ゆうかはん。通り魔事件を追ってるんなら、うちらと手ぇ組めへんか?」
「う〜ん、そうねぇ・・・」
そう言いつつ、スタスタとみづきの方へ歩み寄ってくる。
「ぴらりん☆」
「いっ!!?」
おもむろにみづきのスカートを捲り上げるゆうか。
「お〜、白と水色の縞々とは、なかなか〜♪」
「ど、どアホ〜〜〜!!!なにすんねん!!!」
顔を真っ赤にして、がむしゃらに拳を振るうみづき。それを軽く捌くゆうか。
「まぁまぁ怒らない怒らない☆でも、これで協力するって決めたから」
「なんやと?」
動きが止まる。
「ぱんつの色が白だったら協力しよっかな〜と思って♪真っ白じゃなかったけど、白が含まれてたから特別に合格!!」
屈託の無い笑顔。
「もうちょっとマシな判断方法無いんかい・・・」
「あれ?ブラの色が良かった?」
「そやね。それの方が・・・って、一緒やっちゅーねん!!」
「・・・今のノリツッコミ、イマイチだね」
「かなっちゃん厳しいなぁ・・・」
「そんなことより・・・この事件を追う以上、それなりに強いほうなんだろうね?」
かながゆうかを睨む。
本当は普通に見ているつもりだが、周りにはそう見えた。
「試してみる?」
「それじゃあ・・・!!」
誰かが止める暇も与えず、回し蹴りを放つかな。そこから巻き起こった竜巻『咆哮塵』がゆうかを襲う。
「ふふん・・・」
ゆうかは懐から一枚の紙切れを出すと、それを投げつける。
すると紙切れが電撃を纏い、竜巻を相殺する。
「秘術!『雷神符』!!どうかしら?」
「まぁ、悪くないかな」
かなもそれ以上攻撃を行う気は無い様であった。
「今のは呪符ですか?流石は巫女といったところですわね」
「ふ〜ん、タダのコスプレや無かったんやね、その格好」
「みづきさん、それは言い過ぎな気が・・・」
「あ、この格好は趣味。別に私服でも呪術は使えるし」
「・・・・・・」
せっかくのフォローが台無しである。
「で、これからどーするですか〜?」
今まで事の成り行きを見守っていた(言う事が考え付かなかった)まどかが言った。
「おお、そうやな。タコヤキもあと2種類しかないし、ゆーちゃんも何処に相手がいるか分からん言うし、また明日にするか?」
「・・・来る」
突然、まやが立ち上がる。
ちなみに先ほどまで、屈みこんでタコヤキ(カスタード味)を食べていた。
「え?何が?」
「上」
「へ?」

突然、道の真ん中が爆発した。

「な、なんや!!??」
「わかりません!一瞬何かが降ってきたような・・・!?」
立ち上がる煙の中に、『それ』は居た。

誰が何と確認する前に、まやが『それ』に突進する。
「ふっ!・・・そこぉ!!!」
前転宙返りしながら『それ』に踵落しを繰り出す。
『それ』は、振り落とされた足を片手で掴むと、そのまま力任せにまやを地面に叩きつける。
「ぐ!!」
息が詰まる。
更に『それ』は足を離さず側面のブロック塀にまやを叩きつけると、そこに黒い気弾を発射する。
「が・・・!!」
ブロック塀が粉々に砕け散る。
まやは動かない。
「どうやら、こいつがそうみたいやな・・・」
構えを取るみづき。

実は、今の今まで恐怖で動けなかった。
まやを遥かに上回る「殺意」・・・いや、「恐怖」を『それ』は纏っていたからである。
街灯は『それ』が降ってきた時に全て壊れた。月は雲に隠れている。
まだ姿は分からない。
だが、「恐怖」で『それ』が何処に居るか分かった。
みづきは思った。まやは凄く勇気があるか、凄くバカかのどちらかだと。こんなやつに躊躇無く突っ込めるのだから。

「どうする?普通に行っても、まず勝ち目無さそうやで」
口だけは達者である。
そうしていないと、膝から崩れ落ちそうだった。
「・・・同時に仕掛けるしか無いですわね」
みづき以外の4人も必死で構えをとっている。
あの無神経なえみまで警戒しているのだから、相当だろう。
そんな中、あやせは一瞬だけホッとした顔を見せる。
−よかった・・・れい様じゃない。しかし、これはそれと同じかそれ以上に・・・
顔を改めて引き締める。
「姉さん・・・!!」
「うん、行くです!!!」
あやせとまどかが同時に走り出す。
「らりあ・・・!!?」
まどかは腕を振り上げた。
振り上げただけだった。
まだ振り払う動作にも達していない。
だが、まどかの腹部には既に蹴りがめり込んでいた。
倒れざまに見えたのは、腹を押さえて膝を着く妹の姿。
「あや・・・せ・・・ちゃ・・・・・・」
そこでまどかの意識は途絶えた。

「あかん・・・目で追うのも限界や・・・」
「今の蹴り・・・ボクも見えなかった・・・」
背中に寒いものが走る。
「どうする?特攻してみるか?」
「逃げるのは無理だろうからね。でも・・・」
強く、地面を踏みしめる。
「タダでは負けないよ!!」
「そやな・・・!!!」
2人が同時に技を繰り出す。
超高速の突進突き『浪花烈火弾』。
同じく、超高速の突進蹴り『天舞轟穿槍』。
「乱轟!!雷神符〜〜〜!!!!」
その後ろから襲い掛かる極太レーザー。
みづきとかなは仲良くぶっ飛んだ。
「あ、ごめ〜ん☆ほら、マンガとかだと『ビームを纏って突進!!』とかになるから、ちょうどいいかな〜とか・・・」
「無理だってばそんなの・・・」
ダメージと痺れで動けないかな。
「くぅ・・・まさのぶ・・・すまん、ここまでみたいや・・・」
「誰だよまさのぶって・・・」
「え、何まさか彼氏!?きゃ〜☆」
非常時だというのに、ゆうかはやたら元気だった。本物のバカである。
「あれ・・・まさしやったっけな・・・てるのぶやったっけ・・・」
「・・・彼氏の名前くらい覚えてあげようよ」
「あ」
雑談していた3人に襲い掛かる焔の壁。
立ち上がることもできず焼かれるみづきとかな。
1人悠々とガードするゆうか。
「ごめんな・・・かずと・・・・・・」
「結局名前なんていうんだよ・・・・・・」
それが2人の最後のセリフだった。
「さぁって、やっとゆうかちゃんの出番ね!!」
ゆうかは明るい笑顔を見せた。
全く恐れていなかった。
これはもう無神経ではない。
圧倒的な「余裕」である。
「今会ったばかりとはいえ、仲間の仇は採らないとね〜」
拳を強く握る。
すると拳に、いや腕全体に電撃が纏う。
「かみなりぱ〜〜〜んちっっ!!!」
この技には絶対の自信がある。
防御の上からでも電撃でダメージを与えることができる。
今までこれ一発で多くの「魔」を祓ってきた。
今回もこれで片付けるつもりだった。

ガードされた。
しかも、相手はほぼ無傷。

「むか・・・ちょっと本気出そうかな!」
続けざまに反対の腕でもう1発、更に電撃を纏った蹴りを一発。

全て通用しなかった。

「・・・こりゃ予想以上だわ」
『それ』が拳を腰に構える。ゆうかは蹴りの直後で体勢が崩れたままだ。
「やば・・・!!」
「ぐるぐる〜〜!!!」
焦るゆうかの頭上から、えみが得意技の『ぐるぐる弾』で突進してきた。
「ナイス援護!!」
『それ』が一瞬上に目が言った瞬間に、ゆうかは間合いを離す。
これでえみの技に巻き込まれないでも済む。
「あ・・・え?」
えみは見た。
見えてしまった。
きっと猫のように夜目が利くことが原因だろう。
だが、それはえみにとって見えてはいけないものだった。
−ひびきちゃん!!??
えみの動きが止まる。
そこに振り上げられる拳。
よく知っている技。
大好きなひびきちゃんの得意技『天翔拳』。
−そんな・・・なんで・・・?
もう避けれない。
「ひびきちゃん・・・!!!」

えみの身体が地上に落ちる。
怪我は・・・していない。
「ぬぅ・・・」
低い声に驚き、そちらを向く。
『それ』・・・ひびきの両腕から煙が上がっていた。

「おい、えみ」
遠くから聞き覚えのある声がした。
−このこえは・・・
「ひびきの奴、道場に居ないし、こだまに訊いても知らねーって言うからあちこち探してんだけどよ。
で・・・お前ら、何と戦ってるんだ?」
掌に焔を燻らせている少年・・・かずまが尋ねた。
「え・・・?だから、あれはひびきちゃん・・・」
「確かに見た目はそっくりだ。でも、あんなのがひびきの訳ねぇだろ」
「でも・・・」
「お前は下がってろ。足手まといだ」
かずまがひびきの元へ歩み寄る。
「わりぃが、俺が闘りてぇのはお前じゃねぇ。さっさと消えてもらうぜ」
構えを取るかずま。
−気迫だけは本物より上だな。だが・・・
かずまは転がるようにひびきの懐に潜り込み、近距離で屈みながらの足払いを繰り出す。
それを小さく飛んで回避し、空中からかずま目掛けて蹴りを繰り出すひびき。
「甘いんだよ!!」
屈んだ状態から一気に立ち上がりつつ焔を纏った拳・・・『天翔拳』を放つ。
今度ばかりは防御できない。
拳がひびきの顎を捉えた。
高々と跳ね飛ばされるひびき。
だが、地面に衝突する直前に受身をとり着地する。
「消し炭にしてやる・・・!!!」
零距離咆哮弾、肘打ち、双掌打の連続攻撃。
必殺の三連撃『かずまスペシャル』が、姿勢を制御しきれていないひびきに直撃する。
最後の一撃でブロック塀にぶつける。
「燃えちまえぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」
かずまの全身から焔が噴き出し、それが掌に収束する。
そして、かずまの身長の倍はあろうかという巨大な火炎弾を発射する。

かずま最高の必殺技にして、片桐流空手道最終奥義『覇迅咆哮弾』である。

「ぐぬぅぅぅ!!」
焔の中、地の底から響くような呻き声が聞こえる。
しかし、それも直に止んだ。
そして火炎弾が消えた時には、そこには何も無かった。
「決まったな・・・ち、手間かけさせやがって。なんだったんだよコイツはよ・・・」
「なかなかできるな。なら、これはどうだ」
「何・・・!!?」

かずまの後ろに、『それ』は居た。
振り向いた頃には空中に。
そして見上げた時には空中から大量の黒い気弾が降り注ぐのが見えた。
回避する隙間など無い。
「マジかよ・・・」
黒い雨に打たれ、倒れ伏せるかずま。
「まだ終わらせんぞ・・・!」
『それ』はかずまの身体を掴みあげると、全身から黒い気を辺り一面に放つ。
「な、なにこれぇ!!?」
「ちょっとちょっと・・・こんな邪悪な気をこれだけ放たれるなんて、どんな化け物よ・・・」
数秒して、視界が戻ってくる。
そこには、完全に動けなくなったかずまの姿と、それに背を向けて立っているひびきの姿があった。
「こりゃ〜ヤバイわ・・・こうなったら・・・」
ゆうかは刀を構える。
「『神刀荒神丸』・・・ホントは人間相手に使いたくなかったけど、しゃーないわね」
「ま、まって!!」
えみがゆうかにしがみつく。
「ひびきちゃんをころしちゃだめ!!!」
見ると目に涙が浮かんでいた。
「・・・大丈夫」
優しくえみの顔に手を当てる。
「ゆうかちゃん・・・」
微笑むゆうか。
「一発で決めてあげるから☆」

スペース
スペース

スペース
スペース

「ちがうってぇ〜〜〜!!!」
最早、ゆうかの耳に声は届いていなかった。
ひびき目掛けて走りつつ、刀を居合いに構える。
「はぁぁぁぁ!!!!」
ひびきは突っ込んでくるゆうかに対し、両手に黒い気を溜め始める。

居合いの一閃と、巨大な咆哮弾が放たれるのは同時だった。

お互いの動きが止まる。
ゆうかは刀を抜いた姿勢のまま。
ひびきは両手を突き出したまま。

ゆうかの髪を結っていたリボンが焼け落ち、長い髪がバサリと広がる。
「ふん、所詮その程度か」
ひびきが、彼女が発しているとは思えぬほどの低い声で呟く。
「ふふん・・・勝ったのは私よ」
ゆうかが刀を鞘に収める。

その直後、ひびきの服が霧散した。

スペース
スペース
スペース
スペース
スペース
スペース

「きゃ〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!」
絶叫するひびき。
「ひ、ひびきちゃん・・・」
その声(というか悲鳴)は地獄の底から響いてくる声では無かった。
紛れも無い「ひびき」の声。
「ひびきちゃ〜〜〜〜ん!!!」
えみが涙を流しながらひびきに抱きつく。
「え、えみちゃん!?なんで泣いてるの?ていうかなんで私、道の真ん中で裸なのよ〜〜〜!!?」
全然状況を把握してないひびき。
「どうやら悪霊は離れたみたいね〜☆普通にやって勝てそうに無かったから、
媒体本人にショックを与えて無理矢理引き剥がす作戦に出たんだけど、成功して良かったわ〜♪」
「あの〜、何だかよく分からないんだけど・・・」
「とにかく、一件落着って事☆あ、服は私の巫女服着てくれていいわよん♪」
そう言っておもむろに服を脱ぎ出すゆうか。
「ちょ、ちょっと!!?公衆の面前でイキナリ何を・・・!?それ以前にあなたはどちら様!!??」
「あ、暴れてる時の記憶無いんだ?私は『ミラクルミコミコガール 七星夕香』よ。よろしくね♪」
言い終えると共にバサッと服を投げるゆうか。
ひびきの顔に巫女服が覆いかぶさる。
「ゆ、ゆうかさん!!?」
顔に被さった服を取ったときには、ゆうかはセーラー服姿になっていた。
「へ・・・?」
「私はいつも下にセーラー服着てるの。『服を脱いで変身』はヒロインのたしなみってね☆」
「そ、そうなんですか・・・」
とりあえず、いつまでも裸で居るわけにもいかないので巫女服を着るひびき。
「うんうん、似合ってる似合ってる♪特別にそれあげるわ。私たくさん持ってるし」
「はぁ、どうも・・・」
「それじゃあ〜無事退魔も済んだし私はこれで。また取り付かれたら祓ってあげるから☆じゃ〜ね〜♪」
「・・・え?私何かに取り付かれてたんですか?え?ちょっと?」
質問を言い終える前に、ゆうかは行ってしまった。
「・・・・・・何?いったい・・・」
「えみはいつものひびきちゃんがかえってきたら、それだけでいいもん☆」
すり寄って来るえみ。
「はぁ・・・帰ろっか。もう夜遅いみたいだし。・・・ふぁ・・・ん、また眠くなってきたし・・・」
「うん☆」
−う〜ん、なんか凄い量の気を消耗した後みたいな気分・・・ま、いいか。早く寝よ・・・
ひびきは考えるのを止めて、えみと並んで家路に着いた。

念のため言っておくが、この日は月が出ておらず街灯も全て壊れていた。
ひびきが周りに死屍累々が積まれていることには気づかなかったのは当然かもしれない。
ちなみにえみは、ひびきが帰ってきた嬉しさの余り皆のことは忘れていた。

スペース

翌朝、5人の少女が道端で倒れているのが通行人に発見され、すぐに病院に運ばれた。
幸い死者は出ず、全員3ヶ月以内に完治した。
医者曰く「どの傷も普通の人なら5回死んでる傷」とのことだった。

スペース

「・・・さん。かずまさん・・・」
「・・・ん」
かずまが目を覚ましたのは事件の翌日、公園のベンチの上であった。
怪我には丁寧な手当てが施されていた。
しかし、周りには誰も居なかった。
「・・・ま、いいか。さぁて、今日こそひびきを倒しに行くか!!」
意気揚々と公園を後にするかずま。
その近くの電柱から1人の少女がかずまを見守っていた。
「かずまさん・・・頑張って!」
小さく声援を送る少女。
名をイクエといった。

Fin

スペース
スペース
スペース
スペース
スペース
スペース
スペース
スペース
スペース
スペース
スペース
スペース
スペース
スペース
スペース
スペース
スペース
スペース
スペース
スペース
スペース
スペース

次回予告

苦戦の末、片桐家の邪霊を祓ったゆうか。
しかし、彼女に休まる時間は無い。
新たな強敵、藤野兄妹がゆうかの前に立ちふさがる。
圧倒的な力に取り込まれた兄と、その兄を助けようと自らも修羅と化した妹。
果たしてゆうかは兄に取り付いた力を祓い、妹の邪悪な力も打ち消すことができるのか!?

次回、『ミラクルミコミコガール ゆうか』第2話。
【超能力兄妹の挑戦】に、どうぞご期待下さい。
「ゆうかちゃんにおまかせよ☆」

スペース
スペース
スペース
スペース
スペース
スペース
スペース
スペース
スペース
スペース
スペース
スペース
スペース

「なんですか、↑これ?」
「どうやら今回我々の出番が無かったから、名前だけでも出しておこうという作戦らしい」
「・・・あの、『藤野兄妹』って書いてるだけで名前は出てないんですが・・・」
「うむ・・・まぁ、色々事情はあるのだろう。その辺は察せ、妹よ」
「はぁ・・・」
「ね〜ね〜」
「しかし、毎回私の扱いが毎回悪いことこの上無いな。今回遂に番外扱いか。こうなったら作者を脅して・・・」
「ね〜ね〜ね〜」
「いや、それはいくらなんでも・・・」
「・・・クマさん!!!」
「ぐはっ!!!」
「に、兄さん!?」
「・・・私なんか今回名前も出てないもん・・・」
「あ・・・悲しいですね・・・」
「いいもん、次回は私を主役にしてもらうんだもん!!」
「次回はこの『ミコミコ』・・・」
「ダメ、それだけは先生許さない」
「・・・・・・」
「妹よ。今回はこの辺にしておこう。これ以上しゃべっても容量が増えるだけだ」
「そうですね。行きましょう、兄さん」
「・・・はう。先生ももう帰ろっと・・・」
「結局なんだったんでしょうね。このコーナー」
「作者の気まぐれだろう。きっと」